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低アルコールと向き合う [甲州について]

グレイスワインの月曜日は、早朝会議から始まります。

社長や幹部が集まるのは、朝の七時半。

農園、醸造、営業、経理が、今週の予定と重大なニュースを話し合います。

全体朝礼は、その後8時から行われますが、早朝会議に出席しない社員のみんなも、朝早くからお掃除や体操をしています。

全体朝礼は、まず倫理をみんなで説き、その後社長の一言へと続きます。
社長の話は、一週間の政治や、社会状況を踏まえた話が多く、朝からピリリとする瞬間です。

また、月曜日は、本社の勝沼の技術者と、明野の技術者が直接会って、情報交換をできる機会です。
朝礼後は、合同で勉強会をしたり、今は、2008年の赤のアッサンブラージュの検討を行っています。

私は、普段、明野のワイナリーで、フラッグシップの「キュヴェ三澤」やセカンドワインの「グレイスシャルドネ」、「グレイスメルロ」などヨーロッパ品種を中心に担当しています。
定番の「グレイス甲州」、「グレイス甲州菱山畑」など甲州は、勝沼のワイナリーで醸造しています。

それでも、明野のワイナリーを担当する中で、少し甲州も造っています。
3年前、私は父から「EUの法律で甲州を造る」というテーマを与えられました。
当時、フランスから帰ってきたばかりの私には、あまり抵抗のない課題だったのですが、今では甘かったなと正直感じています。

甲州は私にとって一番なじみのある品種でありながら、一番理解できていない品種かもしれません...。

EUの法律でワインを造るとはどういうことかと言うと、日本の法律とは、実際かなり異なっています。

まず日本にはワイン法がありません。
ヨーロッパでは、ワイン=葡萄ですが、日本でワインと言っても、その原料が葡萄とは限りません。

じゃあワイン法がないから何をやっても良いかと言うとそうでもなくて、私たちは普段、酒税法と食品衛生法に則ってワインを造っています。

ヨーロッパのワイン法と違うのは、ヨーロッパでは、使用禁止の物質名が挙げられているのに対し、日本は、使用できる物質のみ挙げられています。

例えば、日本では、硫酸銅や、オークチップの使用が認められていませんが、これは、挙げられていないから使用できないということになります。

他にも、多くのことが異なります。上記では、日本での法律が厳しいように聞こえると思いますが、もちろんワイン法がないということで、自由な部分もあります。

甲州に限っては特に、補糖量の制限が問題になると思います。

EUでは地域によって、補糖量が厳しく制限されていますが、日本には制限がありません。

以前のブログで「糖度20度の壁」と紹介したように、甲州は糖度が上がりにくい性質があります。

アルコール発酵によって、糖は分解され、アルコールが生成されるので、甲州の糖度が上がりにくいと言うことは、アルコール発酵が終わり、ワインになったとき、甲州は、総じて低アルコールになります。


余談ですが、日本では、補糖量を計算する時、非常に複雑な計算をします。
簡単に目見当を付けるだけの時は、糖度×0.55で計算すると、予想されるアルコール度数がだいたい出ます。
それなので、甲州は、糖度が20度までいったとしても、アルコール度数約11%のワインということになります。

(ちなみに、フランスでは、1%のアルコールを上げるのに必要とされるショ糖の量を、16.83g/Lとして計算するのが一般的でした。もちろん、酵母によっては、同じ度数のアルコールを得るのに、よりたくさんの、またはより少ないショ糖を必要にするという前提のもとです)

今、日本の市場に出ている甲州は、アルコール度数12%前後のものがほとんどですので、残念ながら全ての甲州は補糖されていることになります。

年によっては、EUで決められている上限をはるかに超えて、補糖されているワインに出会うこともあります。

アルコール度数が高いことによるメリットは、香味成分の増強です。
アルコールが高いと、香りは揮発しやすくなります。
グリセリン等、アルコール発酵の副産物の中では、生成されるアルコール量に比例してできるものもありますので、あつみをもたらすことも考えられます。
また、ワインのアルコールの主成分であるエタノールには「甘味」があり、ワインのバランスを構築するためには、非常に重要とされています。

他にも、熟成に寄与するなどの効果があります。
(しかし、実際は、2004年にボルドー大学のデュボルデュ教授の指導のもと、醸造した無補糖(アルコール度数10%)の辛口甲州が、酸化をかんじさせるどころかフレッシュに今でも飲めたり、「キュヴェ三澤甲州PR2005」が、11%ちょっとしかアルコールが無いのに、嫌味がなく熟成しているところを見ると、これは一概に言えないのかもしれません。)

造り手に取って、アルコール度数が重要視されるのは、当然のことと言えると思います。

実際、アルコール度数が11%と言う甲州を、3年前から造っていますが、「物足りない」と言われることがほとんどで、「EU規定でワインを造るから偉いんじゃない。EU規定で美味しいワインを造って初めて偉いのだ」と言い聞かせている毎日です。

これから始まるEUへの甲州輸出プロジェクト(追ってこの話もさせていただきたいと思います)では、「低アルコール」が一つのキーになります。

へビーでフルボデイの赤ではない、ライトでヘルシーな白で旋風を起そう!という一面を持つこのプロジェクト。

日本では、まだまだ受け入れられないのが、厳しい現状です。

だったらどうするか。

ロンドンのように、低アルコールを個性として受け止めてくれる市場を探す。

とにかくもっと工夫をして、低アルコールながらあつみを出す方法を探す。でも残糖感に頼ってはいけない。


前置きが、とっても長くなってしまいましたが、今朝は、2009年のタンクサンプルを持って、勝沼の醸造責任者の土橋さんと相談でした。

スーパー甲州が日本にまだ存在しない今、私にとって最高の甲州の造り手は、父か土橋さんです。

輸出プロジェクトが始まれば、どの造り手も同じ条件で、甲州を造ります。

その時には、「低アルコールだから」と言い訳せず、美味しいワインを造っていたい。

そう思っています。







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